Ton 氏の BC2022での基調演説(11/18追記)

投稿日時 2022年10月29日 | カテゴリ: Blender.org

【11/18追記】メタバースとAIの項を大幅に修正しました。正直色々と追えていないところがあるので話半分で読んでください。

 Blender Conference 2022で行われた Ton 氏の基調演説について少し解説したいと思います。


■Ton 氏の復帰


 Blender の作者であり、Blender Foundation の中心人物でもある、Ton Roosendaal 氏が、Blender Conference 2022で元気な姿を見せました。

 すでに報じられている通り、Ton 氏は2020年に免疫不全疾患で一時的に入院しており、その後もコロナ禍で Blender Conference の開催が見送りになっていたため、心配する声もありました。



 ちなみに今回は BC 恒例の会場アンケート(国や用途を挙手で答える)はしていなかった模様です。


■今までとこれからと


 ここで氏はこの一枚の1コマ漫画を取り出し、ユーザーと(世界)を襲う災難について解説を始めました。



 まずは「Covid19」。病院を退院した氏はゾンビ映画のように世界が閑散としているのを見たといいます(正確にはここで上の画像を取り出しました)。

 そして幸いにも Blender Conference が開催できる程度にまで収まったら次は、「WW3」(第三次世界大戦)の危機が。氏はウクライナ紛争反対の表明を行っており、Blender Artists でもアバターに応援のカラーリングを行うキャンペーンを行っています(ちなみに私は政治的な事は切り離したい派なので未参加)。



 さらに「Energy Crisis」(エネルギー危機)、「Climate Changes」(気候の変化)、「Biodiversity Collapse」(生命の多様性の激減)と人類が乗り越えるべき障害は多いようです。


■メタバース


 しかしその後ろに控えていたのはなんと「Meta Verse」!



 氏はまやかしや悪夢だとするものの、その一方で、これは3Dエンジンによる次世代のインターネットブラウジング体験であり、業界全体も参加する技術的な挑戦だと話します。そして現在、皆に開かれたオープンなスタンダードを策定中だそうです。

 しかしその一方で、氏は夏のバンクーバーの Siggraph にて、メタバース関連イベントの開催者の一人に、Blender が招かれなかった理由を訊いたところ、「ああ、多分忘れていたんだよ」と言われたという悲しいエピソードを披露します。

 実際は大資本の企業間で作ったパイを彼らの間で分けるだけで、一般の人々には恩恵があるような仕組みにしないだろう、と。多くの人はそんな大企業を訝しんでいるおり、そんなことで本当に人が付いてくるのか、と。



 プレゼンテーションの時系列が前後しますが、氏は少し後でメタバースの作り方について語っており、清く正しく作るのではなく、単に人々のためになるように作るべきとしています。

 アーティストを例にすると、Webでの作品の共有や、コラボレーションやマーケットへのアクセスなどで、自分の人生をコントロールできるようにすることだと主張しています。


■Blender Lab


 そこで、氏は3Dに関わるクリエイティブな人々が集まるコミュニティを持ち、「非営利団体」である Blender Foundation の出番ではないかと語り、AR や VR などにより、オンラインで共有・協力できるなどの「未来の Blender」を5年のスパンで模索する新たな取り組み「Blender Lab」を発表しました。



 しかし、メタバースの後ろにもまだ難関が待ち受けていました…。

■AIについて


 ラスボスは「AI」です。多くの人が AI が災厄(ここでは「メタファー」と呼んでいます)をもたらすと主張しており、そんな彼らは Blender のジオメトリノードを使うよう訓練されている AI があると信じているらしいです。しかし氏はそんなものは気にしなくていいといいます。

 氏は AI をアーティストのために働き、コントロール可能かつフリーでオープンにアクセスできるツールにすべき、と主張しました。




■The Freesom to Create


 2年前に Ton 氏が退院した時期、街はロックダウン中で、氏には考える時間がたくさんあり、氏の遺産とアイデアをスローガンの形で多くの人に伝えたいと思ったそうです。そして次の「3つの自由」が生まれました。

1. Freedom to deploy production software
 (制作ソフトウェアデプロイの自由)
2. Freedom to apply creative resources
 (クリエイティブリソース適用の自由)
3. Freedom to participate in the market
 (マーケット参加の自由)



 1はオープンソースの原則で、ソースコードへの自由なアクセスと変更や新バージョンの作成、そしてその共有が自由に行えるということです。
 2はライブラリやデータといったリソースへのアクセスの自由。リソースにはアセットだけでなく、制作の知識なども含まれています。
 3はマーケットへのアクセス。氏は動画やゲームなどの自作品が自由に販売できるマーケットに取り組みたいとのこと。


■Blender Apps


 これは blend ファイルと設定ファイルにより、Blender を利用した単独のツールやアプリケーションを作成できるようにする機能です。実は Blender 2.8からの案件だったのですが、それがようやく日の目を見ることになるようです。

 詳細は code.blender.org にて近日公開されるとのこと公開されました




■Blender Studio の役割の見直し


 Blender Studio は映画の制作を通じ、オープンソースによるパイプラインを模索してきましたが、普及とともにその役割を終えたため、業界のアーティストを使い捨てにするパイプラインとは違った、個人や小チームがより幸せに、そして生産的になる方向に舵を取ることにするとのこと。



 ちなみに今も短編映画の制作は続けられており、最新作の「Project Heist」がプレミア上映されています。




■「親愛なるハリウッドへ」


 突然 Ton 氏はハリウッドへの愛を語り始めました。しかしそれは最終的には、もうハリウッドのために Blender がすることはなく、代わりにアドビやオートデスクに面倒を見てもらってほしいという結末になりました(ちなみに今もハリウッド業界とは仕事はしているらしいので、決別宣言というわけでもありません)。

 これは裏を返せば、上述の個人や小スタジオでの制作に対象を絞ったともいえます。




■エクステンション・プラットフォーム


 最近の「欲しい機能があるならアドオン買え」といった風潮がフリーソフトウェアの理念から逸脱してきているとし、Blender Foundation 管理の新しいアドオンプラットフォーム(Blender Extensions (BE)、extensions.blender.org)の設立を告知しました。



 氏によると、事前承認の高品質なアドオンが誰でも使用できるようにするとのこと。Blender MarketPoly Haven との協力し、衝突が起こらないようにするそうです。

 code.blender.org の記事では、Firefox のようなアドオンの自動的な更新も予定されており、ライセンスは GPL または CC-BY-SA になるとのこと。


■終わりに


 非常に長くなりましたが、この数年間が一気に放出されたような、そんな基調講演でした。途中悲しい話もありましたが、まだまだ Blender 界隈からは目が離せそうにありません。



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